medisere メディセレ 川井 児島

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サンキュードラッグ株式会社 代表取締役社長 平野健二
対談目次   【第1回】 信頼される薬剤師像
    【第2回】 信頼の裏付け
    【第3回】 アメリカの制度と薬剤師

第2回 信頼の裏付け
 

児島 : 前回、アメリカの薬剤師が高い社会的信頼を得ているということをお話ししてくださいました。第2回目の対談では、その信頼の裏付けを具体的にお話ししていただきたいと思います。よろしくお願いいたします。

平野 : 薬剤師が身近な存在であることの重要性は前段で述べさせていただきました。では、「身近な存在」は、薬剤師の生活者に対する姿勢だけで表現されるのでしょうか?答えは「否」であります。知識的・技術的な裏付けに加え、生活者の健康の悩みに直接触れることのできるポジションを、長年にわたって築いてきたことを忘れてはなりません。

児島 : 確かに、日本では近年、医薬分業が進み、患者様と薬剤師がコミュニケーションを取る機会が増えてきました。しかし、これもここ十数年の話です。アメリカでは、日本よりも早くこういった患者様とのコミュニケーションが行われてきたのですね。

平野 : ある薬剤師を「身近な存在」と感じる大前提は、その薬剤師に触れる機会が多いことです。たまたま病気をした時に一度だけあっても、「頼りになる」とは感じても、「身近な存在」にはなりえません。身近で頼りがいのある薬剤師になるプロセスは3つあります。まず、第1のプロセスは、「調剤とOTC、健康食品の総合的なアドバイスができる」ことです。

児島 : 確かに、服薬指導だけでなく、OTCや健康食品、サプリメントなど、セルフメディケーションに関する相談に乗ることで、圧倒的に薬剤師とのふれあいのチャンスが増えますね!

平野 : そうです。ドラッグストアは、20世紀の間は都心立地で物販中心の安売り店でしたが、高齢社会においては、住宅地を中心に半径500m(高齢者の足で徒歩10分)の来店者が多数派となります。病気になった人だけではなく、病気が心配な人、病気にならないよう努力をしたい人の良きアドバイザーになれたら、いざ病気で来店された時に、併用薬や配合禁忌で失敗することがないばかりか、体質や生活習慣に合わせたアドバイスを提供したり、処方した医師に何らかの進言すらできるでしょう。

児島 : 今後は医療用医薬品のみならず、幅広い相談に薬剤師が積極的に関与しなければなりませんね。このためには、今まで以上の知識が要求されます。知識もないのに関与できませんから、薬学生、薬剤師は、当然勉強しなければなりません。現在、生涯教育や大学院へ進学する現役薬剤師が多いのも、このような勉強の必要性をみんな感じているからだと思います。

平野 : 薬剤師さんの中には、「OTCや健食まで勉強したくない」とか「効き目も大したことない(証明されてない)ものに携わりたくない」という方もいらっしゃるでしょう。では、これらすべての方に医療機関へ行っていただくように進言するのでしょうか?コスト面でも大変なことになります。でも、それ以上に大切なことは一般の方の健康や医療に対する関心を高めることに、薬剤師が協力するのかしないのかというところです。あまり効果を期待できない薬もあるでしょう。民間伝承を信じ込んでいて、なかなか手に負えない患者さんもいるに違いありません。これを頭から否定するのではなく、普段から相談に乗り、信頼を得ることで、本当に大切な時に大きな役割を演ずることができるのです。

児島 : 確かに、このような相談に乗ってくれる「身近な存在」は、社会にとって必要不可欠です。また社会的貢献度も非常に高いですね。今後、医療費(医療保険支出)を抑制するために、多くの医療用医薬品が保険適用をはずれ、OTCスイッチされる動きがあります。第92回薬剤師国家試験(2007年3月実施)でも、スイッチOTCに関する問題が初めて出題されています。

平野 : そうです。患者数は高齢化によって増える一方で、医療費抑制調剤のため、医療用医薬品の単価や保険適用の範囲は縮小の方向にあります。「調剤しかできない」薬剤師の運命はお寒いものがある。一方、医療用医薬品(調剤)、現在医療用医薬品からスイッチされるOTC、既存のOTC、健康食品を総合的に理解し、うまく使い分けのできる薬剤師は非常に身近で、貴重な存在になります。

児島 : よくわかりました。では、「身近で頼りがいのある薬剤師になるプロセス」の2つめは何でしょうか?

平野 : 第2のプロセスは、「予防医療への関わり」です。

児島 : 予防医療は、患者のQOL向上にも重要ですが、もう一つ、経済面でも大きな効果がありますよね。

平野 : はい。2006年度で総額33兆円(国民一人当たり25万円)かかっている医療費は、高齢化と共に増え続けます。国(医療保険)で負担する額だけを見ても、2025年には56兆円と予測され、国はこれを48兆円に抑えるべく施策を練っています。医療費には、医療を受けた人が払う自己負担分がありますが、これは徐々に上がって既に3割に達しており、「保険=困ったときに頼りになるもの」という性格からすると、これ以上、なかなか引き上げにくいものがあります。また、給与(とボーナス)から天引きされる保険料は政府管掌保険で8.2%ですが、2025年には現役世代と引退世代の人口構成比が1.6倍になる(現役一人が支える高齢者数が6割増える)ことを考えると、この負担率を上げることにも限界があります。医療保険の他に天引きされる「税金」「年金」「介護保険」などを加えると、2025年には総収入に占める可処分所得は36%しか残らなくなります。こんな国に住みたいと思う人はあまりいないでしょう。

児島 : とくに、年金暮らしの高齢者にとっては、生活上の大きな問題になってきますよね。

平野 : こうなると、矛先は、今まで高収入を得てきた(と多くの人が思っている)医師や薬剤師に向かうかもしれません。こうなると「信頼される職業」どころの騒ぎではありません。薬剤師は国民の敵・いけにえとみなされるかもしれないのです。

児島 : 大げさな話ではなく、本当にそういう時代がやってくるかもしれません。そうならないためにも、そして何よりも日本に住む人が幸せであるために、「予防」が重要ということですね。

平野 : ここに、一つの統計数値があります。私の住む福岡県は、県民一人当たりの医療費が全国でワースト3(高い)に入ります。高齢者に限って言えば、全国平均の一人当たり年間60万円に対して90万円で、全国トップです。一方で長野県は20年ほど前、極めて高かった医療費が徐々に低下し、今や最も医療費のかからない県になりました。明確な裏付けはありませんが、長野県は健康診断の受診と早期の対応を進めてきており、受診率は全国最高です。そして福岡県は受診率が全国最低なのです。早期に健康状態をチェックし対応することが、何よりもまず、大きな疾病を予防し、元気な長寿を実現し、結果として医療費も抑制できるということを暗示してはいないでしょうか。

児島 : 非常に興味深い統計データですね。これほどまでに健康診断と早期受診が大きな影響を持っているとは知りませんでした。ですが、経済的な面から医療を見ていると、少し患者様中心の視点、からズレてしまうような気がしますが…。

平野 : 医療に携わる方の中には「医療費」を語ることを嫌う方もあると思います。もちろん医療費を下げることが至上命題なのではなく、生活の質が大切なのですが、医療費という「数字」は、疾病に苦しむ人が少ないということの「指標」として参考になります。また、節約した医療費は、保険適用の範囲外にある難病の治療に使うことも可能です。何千万円の募金を集めて外国で手術を受ける方の話が時々報道されますよね…こんなことも、無駄を省けばなくなるはずです。

児島 : 数字は、間接的に患者のQOLの指標となるわけですね。

平野 : このように「予防」は経済的にも生活の質にも重要な役割を演じます。ましてや、昨今話題のメタボリックシンドロームなどは普段の生活の中で改善できるのですから、是非取り組まねばなりません。すぐには成果が出にくいが故にくじけやすい潜在患者を励ます身近なアドバイザーとして、薬剤師の役割は大きいものがあります。

児島 : なるほど。よくわかりました。では、最後の第3のプロセスとはどのようなものなのでしょうか?

平野 : 第3のプロセス、それは、「介護」です。誤解を生まないために申し上げますが、タイトルをあえて「介護」としたのはわかりやすいためです。より実情に近い言葉で表現すると「在宅」というのが、私たちの取り組むべき課題です。

児島 : 在宅と言えば、高齢者医療をイメージします。またまた経済的なお話になりそうな予感がしますが。

平野 : はい。またしてもお金の話です。つまり、それほど日本の医療財政は逼迫しているのだ、とご理解下さい。ある患者さんが病院という名の、医師、看護師を常駐させた環境に置くのと、家庭にいるのでは大きなコスト差が発生します。医師のサポートを受け、看護師やヘルパーが常駐する介護施設にいるのと、家庭を比較しても同様です。


児島 :
確かに、現在国は、入院日数を削減する施策を進めていますね。

平野 : そうです。わかりやすく言えば、癌の手術を待つ患者には手厚い体制が必要ですが、手術を済ませた人はがん患者ではなく「外傷が癒えるのを待つ」人と考えるわけです。そこで求められる看護体制は、間違いなく異なります。さらに言えば、何か変化があった時の体制さえ担保すれば、在宅でも良いということになります。また、入院そのものを減らすことにもつながります。

児島 : そういえば、アメリカでは出産や盲腸手術など、日帰りだそうですね。

平野 : はい。つまり、アメリカでは、入院するということは、絶対的な医師の必要性があるかどうかで判断されるのです。繰り返しますが、多くの日本人が不安になるこのような仕組みにすべきだと言っているのではありません。しかし、このまま行くと発生する高負担を皆さんが耐える覚悟があるのか、医療保険でカバーされない治療に手を差し伸べるのか…こういったこととのトレードオフで考えねばならないことを理解して欲しいのです。

児島 : トレードオフ、つまり私たち日本人は、大きな選択に迫られている、ととらえなければならないわけですね。

平野 : その際、在宅となる「従来ならば入院(施設に入居)しているであろう方」や、「特に病気ではないけれども高齢であるが故に不安な方」に安心を提供するのが薬剤師の大きな使命になるのです。また、癌の末期など、「治る」ことよりも「生活の質」「満足度」に重点が置かれる患者さんであれば、家族と過ごせる「在宅」は目標にすらなり得ます。普段から身近な相談相手であれば、愚痴や悩みをお聞きすることから始めて、適切なアドバイスを提供することができます。枕元で勇気付けることもできるでしょう。家族の負担を軽減するための提案や、在宅を可能にする機器(酸素や心電図計など)や薬剤の提供(麻薬など)という業務も発生します。

児島 : もちろんそこでは、薬剤師だけではなく、医師や訪問看護、社内でも栄養士などとの連携が発生しまね。平野社長のお話で、今後の薬剤師のあり方が見えてきました。今回は、どのようなステップで、社会の信頼を得るのか、具体的なお話でした。Medisere SCHOOLの学生には、講義の中でこの3つのステップを見せていこうと思っております。そして、「社会の信頼を得られる薬剤師」の育成に幾ばくかの貢献ができれば、とMedisereは考えています。とても有意義な時間でした。有り難うございました。次回は、平野社長と「アメリカの制度と薬剤師」について対談します。

 
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